はじめに
昇進・昇格試験で、多く見られる試験の一つに「ケーススタディ形式」の問題があります。
たとえば、
- 「部下の不調やトラブルにどう対応するか」
- 「組織目標と個人事情がぶつかる中で、どう調整するか」
といったように、実際の業務に近い状況設定のもと、あなたがマネージャーやリーダーの立場でどう判断・行動するかが問われます。
ところが、受験者の多くがつまずくのが、この問いへの取り組み方です。
「何を書けばいいか分からない」
「思いつきで書いているようで、自信が持てない」
「現場ではやっているのに、それを“言語化”するのが難しい」
こうした不安は自然なものです。
なぜなら、ケーススタディでは「現実的な対応力」や「思考の筋道」が評価対象であり、単なる知識や経験の有無では測れない力が問われるからです。
この記事では、ケーススタディ問題に苦手意識がある方に向けて、思考の流れや実際のケースと模範解答、書き方や対策のポイントをわかりやすく紹介します。
自信を持って臨むためのヒントを、ぜひ見つけてください。
ケーススタディ問題とは?
ケーススタディ問題は、あなたがリーダーや管理職としての視点を持ち、実際の業務上の課題にどう向き合うかを評価する設問形式です。
特徴としては、次のような点が挙げられます。
- 正解が一つではない
- あなたの「考え方の筋道」や「現実的な対応力」が問われる
- リーダーや管理職としての視座があるか
たとえば、部下の勤務態度に問題がある場合、「本人に注意して終わり」ではなく、その背景にある要因やチームへの影響、再発防止の仕組みなどにまで踏み込んで提案できるかが問われます。
また、形式としては次のようなケースが出題されやすくなっています。
- 架空の組織・部署でのトラブル(部下の不調・連携不全・顧客クレームなど)
- あなたがリーダーや課長としての立場でどう対応するかを問う
- 800〜1,200字程度で、自分の考えを筋道立てて記述する
つまり、ケーススタディとは「実際の業務に近い疑似体験」であり、あなたのマネジメントスキルや問題解決力、組織への視点を可視化する場でもあります。
ケーススタディ試験への取り組み方|3ステップで整理しよう
ケーススタディ問題に対して、「どう書けばいいか分からない」と感じる方は多くいます。
そこで有効なのが、思考を3つのステップに分けて整理する方法です。これにより、論理的かつ現実的な構成がしやすくなります。
① 問題発見|状況を正しく捉える
まず最初に行うべきは、「このケースでは何が問題なのか」を明確にすることです。
- どんな出来事が起きているか?
- どの立場の誰が困っているのか?
- 問題は“個人”なのか“組織”なのか?
表面的な事象だけでなく、全体の流れを俯瞰しながら状況を丁寧に把握します。ここでの読み違いがあると、すべての対策がズレてしまうため、慎重に進めることが大切です。
② 原因分析|問題の背景を分解する
問題が分かったら、次はその原因を探ります。ここで重要なのは、「思い込みを避けて、複数の視点から見ること」です。
- 個人のスキル不足や姿勢の問題?
- マネジメントの構造的な課題?
- チーム内や上司の関与に不足はないか?
要因を抽出したら、「人」「組織」「環境」などに分類して整理すると、優先順位もつけやすくなります。
③ 解決策の提案|現実的かつ役割に即した行動
最後に、解決策を考えます。ここでは、ケース内の“主人公の立場”(リーダーやマネージャー)に立って対応を検討することが重要です。
- すぐに着手すべき優先度の高い対応は?
- チームや本人にどんな影響があるか?
- 一時的な対応ではなく、中長期の効果も視野に入っているか?
正論だけでなく、「現場で本当に実行できるか?」という視点を持つことが重要です。
この3ステップを意識することで、漠然とした不安を解消し、自信を持って自分の考えを構築できるようになります。
ケース(例題)と模範解答
それでは実際のケースと模範解答を見ていきましょう。
設問
あなたは、T社O支店営業第1課の課長である。
下記のような状況の中で、今後どのようにチームを立て直し、若手リーダー育成と営業成績の回復を図っていくか、あなたの考えを述べなさい。
ケース
T社は、都市に本社を置く住宅メーカーである。1980年代に創業。主に戸建住宅や分譲マンションの設計・施工・販売を行っており、関西地方を中心に地域密着型の営業展開を行っている。
近年は住宅業界全体が資材価格の高騰や人口減少の影響を受け、受注件数が伸び悩んでいる。また、住宅ローン金利の引き上げや中古市場の台頭により、新築住宅の需要は鈍化傾向にある。
こうした状況を打破するため、T社では地域ごとの営業所に裁量を持たせ、現場主導での営業改革に取り組んでいる。その一環として、O支店営業部の第1課では、若手営業社員をリーダーに据えた「小チーム制」を導入し、リーダーの育成と営業力強化の両立を図っている。
しかし、部門を率いる第1課課長のもとでは、若手リーダーが思うように機能せず、チーム内の連携不全や売上不振が目立つようになってきた。課長自身も、日々の個別対応に追われ、チームマネジメントに十分な時間が取れていない状況である。
(※実際にはこれよりも長文です。)
では、以上の設問やケースを踏まえた解答例も見ていきましょう。
解答例(約1,200字)
私は、まず現在の状況を整理し、若手リーダーの育成と営業力回復を両立するための段階的なアプローチを講じていく必要があると考える。
1.問題点
現状、当課では若手営業社員をリーダーとした「小チーム制」を導入しているが、その運用がうまく機能していない。リーダーの役割が不明確なまま任命された結果、チーム内での方向性共有やフォローアップが不十分であり、連携不足が目立つ。また、営業実績も低迷しており、チームとしてのまとまりや推進力が失われつつある。
さらに、私自身も日々の個別対応に追われ、チーム全体を俯瞰してマネジメントする時間が確保できていない。そのため、組織全体としての統一感や育成の視点が弱まり、現場の自走力が低下していると感じている。
2.原因
問題の背景には、以下の3つの原因があると考える。
(1)リーダーの準備不足
・リーダー任命時に明確な役割定義や育成支援が不足していた
・マネジメントに必要な知識・経験の提供が不十分であった可能性がある
(2)私(課長)のマネジメント不全
・目先の対応に追われる中で、リーダーやメンバーとの定期的な対話やフィードバックの場が欠けていた
・状況把握が断片的となり、課全体の方針や価値観を共有するリーダーシップが発揮できていなかった
(3)チーム運営体制の曖昧さ
・小チーム制の目的や目標が全体で共有されておらず、各リーダーの裁量に任せきりだった
・目標やKPIが明確でなく、進捗確認やプロセス評価が行われていなかった
3.解決策
以上をふまえ、私は以下の3つのステップでチーム立て直しを図る。
(1)リーダー支援の強化と育成体制の再構築
まず、各リーダーに対して、週1回のミーティングを設け、目標管理と課題共有の場をつくり、リーダーとしての思考を習慣化できるよう支援する。また、マネジメントに関する基礎知識の習得のため、社内外の研修受講の機会を提供する。
(2)チーム運営ルールの見直し
チームごとに任せていた営業目標や行動計画については、今一度部門全体での方針を示し、方向性の共有を図る。その上で、各チームの状況に応じた柔軟な目標設定を支援し、達成感を得やすい設計とする。進捗確認は月次でフォローし、結果だけでなく「プロセスの成長」にも注目するようにする。
(3)課長としてのマネジメント強化
私自身が、課全体を見通し、個別対応に追われない体制を整える。具体的には、属人的な業務を整理し、日々の業務の中でもリーダーたちとの1on1の時間を意図的に確保する。短時間でもよいので、「対話」の頻度を上げることで、リーダーの成長を伴走的に支援する姿勢を明確にする。
以上の施策を通じて、若手リーダーが役割を自覚し、自らの判断でメンバーを動かす力を身につけられるよう支援する。そして、課全体としての一体感と自走力を再構築していきたい。
評価されるポイントとNG回答例
ケーススタディでは、「何をどう書いたか」以上に、“どう考えたか”が評価される試験です。
以下に、評価されやすいポイントと、避けるべきNG回答の特徴を整理します。
📝評価されるポイント
1.論理的な構成になっている
問題発見 → 原因分析 → 解決策という一貫した流れで書かれていると、思考の筋道が明確に伝わります。
2.役割認識ができている
「リーダーなら」「マネージャーなら」という立場に即した視点で、部下への関与や組織への影響を考慮しているかどうか。
3.他者視点・組織視点がある
自分の考えだけでなく、「部下はどう感じるか」「他部署との連携はどうか」など、広い視野で捉えているかがポイントです。
❌ NG回答の特徴
1.抽象的な提案
「連携を強める」「改善を促す」など、具体性に欠ける表現は、実行可能性が伝わりにくくなります。
2.自己判断だけに頼っている
上司や他部署、周囲の協力を得るという視点が抜け落ちていると、「独断的」と捉えられる恐れがあります。
3.主体性の欠如
「〇〇が悪い」などの他責志向が強かったり、施策への関与が不明瞭であったりすると「主体性不足」と判断される可能性があります。
このように、ケーススタディでは「正しいことを言う」よりも、「どのように考え、誰にどう働きかけるか」が問われます。
対策のコツ|経験が浅くても書ける!準備の仕方
ケーススタディ問題に苦手意識を持つ方の多くが、「管理職経験が少ないから書けないのでは?」と不安に感じています。
しかし、実際の評価で重視されるのは、立場を想像し、自分の考えを筋道立てて表現できるかという点であり、実際のマネジメント経験を問われているわけではありません。
以下のような準備をしておくことで、経験が浅くても自信を持って対応できます。
問題解決思考を習慣化する
先ほど紹介した3ステップ(問題発見→原因分析→解決策)を、普段から「頭の中での訓練」として使っておくことも有効です。
たとえば会議でのトラブル、メンバーの業務停滞、他部署とのすれ違いなど、日々の業務の中でも、「問題が起きた」「誰かと調整した」「後輩をサポートした」といった場面は誰にでもあるはずです。
こういった場面に直面したときに、自分の考えを振り返ってみましょう。
- 何が起きたのか(出来事)
- どんな対応をしたのか(判断・行動)
- その結果どうなったのか(成果・反省)
このプロセスを繰り返すことで、「自分ならこう考える」という軸が徐々に言語化できるようになります。
書籍を活用する
ケーススタディ問題に特化した対策書籍は多くありませんが、【問題解決手法】や【ロジカルライティング】の対策をすることが有効です。
また、これらのスキル・知識を習得することは、稟議書の作成やプレゼン資料の構成作りなど、日常の業務にも有効です。
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まとめ
ケーススタディ問題は、「この対応が正解」という唯一の答えを求めるものではありません。むしろ評価されるのは、問題を正しく捉え、原因を考え、自分なりの答えを論理的に導き出す姿勢です。
特に管理職登用試験では、「現場でどう動くか」だけでなく、「その行動にどんな意図があるのか」「チームや組織にどう波及するのか」といった広い視野と説明力が問われます。
ですから、経験の多少に関わらず、
- 状況を丁寧に読み解く力
- 問題の背景を多面的に考える力
- 自分の立場を意識しながら現実的な解決策を出す力
があれば、十分に評価される答案を書くことができます。
もし「自分の解答がこれでいいのか不安」「もっと良い伝え方があるか知りたい」と感じているなら、第三者からのフィードバックを受けるのも有効です。
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